エシカル消費とブランド戦略~ミレニアル・Z世代が選ぶ理由

企業のマーケティング担当者の皆様にとって、エシカル消費はもはやニッチな市場のトレンドではなく、ビジネスの存続と成長を左右する主軸へと変化しています。
この大きな流れを生み出しているのが、ミレニアル世代(1980年代〜1990年代生まれ)、そして彼らに続くZ世代(1990年代後半〜2010年代生まれ)の購買行動です。
これらの若い世代は、幼い頃からインターネットやSNSを通じて地球規模の課題、例えば気候変動やサプライチェーンにおける人権問題などの情報に触れてきました。
その結果、社会的な課題に対する意識が非常に高く、自身の購買行動を単なる「消費」としては捉えなくなってきています。
彼らは、価格や機能といった従来の要素だけではなく、「その企業やブランドが、どのような倫理観や環境意識を持って事業を行っているか」という企業の姿勢に深い共感を求めます。
マーケティング戦略を構築する上で、この世代の価値観を理解し、彼らの共感を呼ぶエシカルブランドへと変革していくことが、喫緊の課題となっているといえるでしょう。
Z世代の購買傾向を深掘り:価格よりも「共感」と「透明性」
特にZ世代の購買傾向を深掘りすると、「共感」と「透明性」への要求の高さが際立ちます。デジタルネイティブである彼らにとって、情報の取得は容易であり、企業が発信する表面的なメッセージだけでは信頼を勝ち取ることはできません。
彼らが求めているのは、製品そのもののスペックではなく、「その製品がどこで、誰によって、どのような倫理的な背景のもとでつくられたのか」という、バックグラウンドストーリーの全てなのです。
Z世代は、ファッションや食品などの分野で、「サステナブルであること」「フェアトレードであること」「動物実験をしていないこと」といった倫理的な要素を、もはや付加価値ではなく標準的な要件と見なすようになっています。
もし企業が環境に配慮していると主張しながら、そのサプライチェーンの一部で労働問題や環境汚染が発生していれば、彼らはそれを瞬時に見つけ出し、厳しく批判します。
彼らにとっての「共感」は、単に企業の活動を「良い」と感じるだけではありません。それは、そのブランドが掲げるパーパス(存在意義)と、自分自身の価値観や社会に対する想いが深く結びつくことを意味します。
たとえば、あるブランドが海洋プラスチック削減に取り組んでいれば、それを購入することで、自分もその活動の一翼を担っているという「参加感」や「貢献感」を得るのです。
この共感に基づく消費体験こそが、Z世代にとって最も価値のある購買動機となっているに他なりません。
SNS時代の拡散力:エシカルなストーリーはなぜバズるのか
Z世代は、製品を購入した後の行動にも特徴があります。彼らは、気に入った製品やサービスをソーシャルメディア上で活発に共有しますが、そのシェアの基準は、単なる「可愛い」「便利」といった個人的な満足度だけではありません。
むしろ、「この情報を共有することで、誰かにとって有益か、社会的に意義があるか」という情報の公共性を重視する傾向があります。
この傾向こそが、エシカルなストーリーがSNS時代において強力な拡散力を持つ理由です。
環境に配慮した素材を使用していること、途上国の女性の雇用創出に貢献していることなど、企業の倫理的な取り組みに関するコンテンツは、シェアする人自身の倫理的な意識の高さや、社会への貢献意欲を示すシンボルとなります。
つまり、エシカルな情報は「人」を介して価値を帯び、共感の輪を広げるという構造があるのです。
マーケティング担当者は、この拡散構造を戦略的に活用することが求められます。特に有効なのが、エコインフルエンサーや専門性の高いクリエイターとの連携です。
彼らは、単なる商品の紹介ではなく、その製品に込められたストーリーテリング、すなわち「なぜこの製品が生まれたのか」「製造の過程でどんな苦労があったのか」「この製品が社会にどんな良い影響を与えるのか」といった背景を、視聴者に深く、そして分かりやすく伝える能力に長けています。
企業は、自社の活動を抽象的なスローガンで終わらせるのではなく、特定の個人の努力、具体的な製造プロセス、そして支援を受けているコミュニティの現状など、感情に訴えかけるリアルな物語として語り直す必要があります。
このオーセンティック(本物志向)なストーリーテリングこそが、Z世代の「共感」を呼び起こし、結果としてブランドのメッセージがSNS上で自然発生的に広がるための起爆剤となるのです。
成功事例に学ぶエシカルブランド戦略
エシカル消費をブランド成長の核に据え、世界的な成功を収めている事例は数多く存在します。ここでは、特にZ世代やミレニアル世代から高い支持を集めるエシカルブランドの代表格、パタゴニアとLUSHの事例を取り上げ、その共通する戦略を分析してみましょう。
1. パタゴニア(Patagonia):徹底した環境主義と「買わないで」の哲学
アウトドアブランドのパタゴニアは、「私たちはビジネスを手段として、環境危機を解決するために存在する」という明確なパーパスを掲げています。彼らの戦略は、単に環境に優しい製品を作ることに留まりません。
彼らは「Don’t Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」という広告キャンペーンを展開したことで世界的な話題を集めました。
これは、消費者に「本当に必要なのか」を問いかけ、安易な新規購入よりも修理や再利用を推奨するという、反消費主義的とも言える勇気あるメッセージでした。
この姿勢は、企業の利益追求を最優先する旧来の資本主義に対する痛烈な批判として受け取られ、若い世代から熱狂的な支持を集める結果となりました。
なぜなら、彼らの行動は、ブランドの存在意義と製品品質、そして環境保護への取り組みが完全に一貫していることを証明するものだったからです。
自社の製品の修理サービスを充実させたり、古着の買い取り・販売を行うなど、彼らの事業の全てが環境保護という大義名分に結びついているのです。
2. LUSH(ラッシュ):強いメッセージと透明な行動
イギリス発のコスメブランド、LUSHもまた、一貫したエシカルな姿勢で世界中のファンを獲得しています。彼らは、動物実験の廃止、過剰な包装(パッケージ)の削減、そして原材料のフェアトレード調達といった、明確で強いメッセージを打ち出し続けています。
特にLUSHの店頭では、製品に使用される原材料やその調達方法が詳細に公開され、店員も積極的にこれらのエシカルな背景を消費者に説明します。
この徹底した透明性と、バスボムや石鹸を「裸」で販売するパッケージフリーの取り組みは、Z世代が重視する「企業のオープンな態度」と「環境への具体的な貢献」という二つの要求に見事に応えています。
彼らの製品を購入することは、そのまま彼らが掲げる社会的なムーブメントへの参加を意味するため、熱狂的なロイヤルティ(忠誠心)を生み出すことに成功しているのです。
これらの成功事例から学べるのは、エシカル戦略は「片手間でやるべきこと」ではなく、「事業の核心」に据えるべきだということです。
一貫性を持ち、時には短期的な利益を犠牲にしてでも倫理的な価値観を貫く「勇気ある行動」こそが、Z世代の信頼を勝ち取り、強いブランドロイヤルティを築き上げる鍵となります。
エシカルな取り組みをブランド戦略に組み込む3つのステップ
では、このエシカル消費の波に乗り、若い世代から選ばれ続けるためには、具体的にどのような戦略を講じるべきでしょうか。ここでは、エシカルな取り組みをブランド戦略に深く組み込むための3つのステップを解説いたします。
ステップ1:コアな倫理的価値観(パーパス)の設定とコミットメント
まず、「何のために存在するのか」「社会に対してどのようなポジティブな影響を与えたいのか」という、ブランドのコアな倫理的価値観、すなわちパーパスを明確に設定することが重要です。
単に「環境に優しい」と言うだけでなく、「海洋プラスチックの削減に特化する」「特定の途上国における女性の教育機会を支援する」といった、具体的なコミットメント(公約)を定める必要があります。
このパーパスは、製品開発からマーケティング、そして人事戦略に至るまで、企業の全ての活動の判断基準となるべきものです。
経営層がこの倫理的価値観を深く理解し、長期的な視点を持って一貫した姿勢を貫くことを従業員や消費者に示すことが、信頼構築の第一歩となるでしょう。
ステップ2:サプライチェーンの透明化とリスクの開示
Z世代が最も重視する「透明性」を確保するためには、製品の原材料調達から製造、流通、そして廃棄に至るまでのサプライチェーン全体を可能な限り可視化することが求められます。
これにより、製品が児童労働や劣悪な環境下で製造されていないことを消費者に証明できます。
もし、現時点で完璧ではない部分があるとしても、その課題を開示し、「我々はこれを改善するために、いつまでに、どのような努力をする」と正直に伝えることが非常に重要です。
完璧でないことよりも、隠蔽しようとする姿勢の方が、若い世代の信頼を一瞬で失います。トレーサビリティ技術を活用し、スマートフォンで製品のバーコードを読み取るだけで調達背景がわかるような仕組みを導入することも、検討すべき戦略の一つです。
ステップ3:オーセンティック(信頼性のある)な情報発信とコミュニティ形成
最後に、特定したパーパスと透明化されたプロセスを、どのように消費者へ伝えるかという情報発信の戦略が求められます。
ここで重要なのは、「グリーンウォッシング(見せかけだけの環境配慮)」と受け取られないコミュニケーションを徹底することです。
具体的には、広告予算の多くを豪華なイメージ広告ではなく、実際に活動している現場の映像や、支援を受けている人々の生の声を伝えるドキュメンタリー風のコンテンツに振り向けるべきでしょう。
また、インフルエンサーや環境NPOなど、信頼性の高い第三者と協力して情報発信を行うことで、メッセージの信憑性が格段に高まります。
さらに、顧客を単なる購入者としてではなく、ブランドの倫理的ミッションを共に行うコミュニティのメンバーとして扱い、対話を通じて意見を吸い上げる双方向のコミュニケーション設計が、Z世代のロイヤルティを強固なものにするでしょう。
まとめ
本記事を通じて、エシカル消費が単なるブームではなく、特にミレニアル・Z世代の購買行動を決定づける核となる価値観であることを解説しました。
彼らは、価格競争力よりも、企業の倫理的な「姿勢」と事業の「透明性」に「共感」し、その共感こそがSNSを通じて強力な拡散力を生み出す原動力となります。
成功しているエシカルブランドの事例が示すように、もはや環境や社会への配慮は、コストやリスクではなく、ブランド価値を高める最大の競争優位性に他なりません。
次世代の市場で勝ち残るためには、まず、曖昧なスローガンを捨て、事業の根幹となるコアな倫理的パーパスを特定してください。
そして、そのパーパスに基づいたサプライチェーンの透明化など信頼できる情報発信を開始することが求められます。
今すぐ、自社の事業が社会と環境に与える影響を再評価し、「何を変え、何を改善するか」という具体的な行動計画を策定してください。この行動こそが、若い世代からの圧倒的な支持と、持続的なブランド成長への道を開く、決定的な一歩となるでしょう。
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